何もない平原に空耳か歌が聞こえる

懐かしい故郷の歌

忘れてしまった、遠方にある故郷。優しかった思い出があった気がする。

足元には多くの夢の跡がある。

誰が見た夢の跡か。それにのせられた男たちの最後の姿が無数に転がっている。

この今は草さえ生えることを忘れた大地もかつては緑豊かな草原だっただろうか

それを血気盛んな荒くれものの足に踏み荒らされて


誰かが夢見た夢の跡。

彼はその夢の中に置き去りになったまま抜け出せない彷徨える魂なのかもしれない。

私はあんなに美しい人を知らない。

心も姿も立ち居振る舞いに至るまで綺麗な人だった。

私はあんなに悲しい人を知らない。

あの人は生まれながらに運命に翻弄される人だった。

私は少しでもあの人の慰めになりたかった。

でも、あの人にはきっと誰の慰めも届かなかったに違いない。

彼は最も差し伸べれられるべき手を跳ね返された。孤独のまま生まれ、孤独に生きていった。

最後まで救いにも恵まれなかった。


私はそんなこの方を心から愛し、お慕いしました。

壁に一枚の絵画が掛けられていた。

その絵を見る一人の若者はその絵画の魅力に魅入られた様子で時も忘れ、固まったように動かない。

その絵に描かれるは７人の乙女。

そして真ん中には一組の男女。

一見、幸せそうに見えるその恋人たちとその幸せを喜ぶ少女の絵に見えるこの一枚の絵は

しかし、よく見ればそうでないことが分かる。

真ん中の男女の、男を見れば不可思議な部分が多い。

片足は人ならざる獣の足。

そして、男に寄り添う美しい乙女の首筋には

流れ出る血痕。


「ああ、王子。この絵を見てしまわれたのですね。この奥の部屋には入られませんようお願いしましたのに」


この絵画に心奪われたように固まって見る若者に新たにこの部屋に若者を探しに来ただろう神父が声を掛けた。

「…この絵は」

「呪われた絵です。この絵のことはお忘れください。この絵、一枚に纏わることで多くの血が流れた悪魔の絵なのでございますから。どうぞ、お忘れください。」

神父は恐れと嫌悪を滲ませた目で絵画を見ると若者からその絵を隠すように幕を被せた。

昔、その髪が紅かったことから赤の勇者と呼ばれるようになった勇者がいました。

彼は目立つことを嫌い公にその姿を現すことはめったにありませんでしたが、彼に関わった仲間や救われた人々は一様にその真っ赤な燃えるような髪に目が言ったと言います。

とても印象的で強い意志を宿したすばらしい人だったと

彼は世界を危機から救い、その後はまったく姿を消してしまいました。

それから時は流れて、十数年。彼の生死も分からないまま、彼の残した偉業だけが残りました。

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